洲本市の春の風物詩になりつつある「うみぞら映画祭」は、大浜海岸の海の上に巨大なスクリーンを浮かべ砂浜から映画を楽しむという、全国的にも世界的にも珍しい映画祭です。普段は人がほぼいない夜の大浜海岸、イベントの日には浜辺は人で溢れ返り、電飾が灯された松林の中にたくさんの魅力的な屋台が並ぶ様子は、海外のリゾート地に迷い込んだような非日常感が味わえます。そんな心踊るイベントを仕掛けるのは洲本市出身の大継康高さん。現在、京都と淡路島の二拠点生活を送る大継さんに、映画祭のことや、淡路島で何かを始めたい人に向けてのメッセージなどをお尋ねするため、淡路島の事務所であるUMIZORA BASEにお伺いしました。
教育系の大学を卒業後、そのまま教師になるか、もともと興味のあった映像関係の仕事につくか迷い、未経験にもかかわらず映像系の会社に入社したという大継さん。お金をもらいながら映像の勉強ができるなんてありがたい!と見様見真似で仕事をどんどん覚えていきました。その会社で何年か経験を積んだのち、30歳で自身の映像会社を京都で創業。3年ほどたった時、少し仕事に余裕ができた大継さんは、かねてからやってみたいと思っていた「イベント企画」を地元淡路島でしようと思い島での協力者を探しはじめます。ほどなく淡路島フィルムオフィス(https://awaji-fo.jp/)の方と繋がることができ、実行委員を作った方が企画を進めやすいのではとのアドバイスをもらった。そこで「海の映画館をつくろうプロジェクト実行委員会」という団体を作り活動を開始します。
大継さん:企画を進める中で、映画祭だけではインパクトが弱いのでは?となった。じゃあ、オール淡路島ロケの映画も作って映画祭で上映したらどうかと思い、映画祭の準備と並行して映画制作にも取り掛かりました。テレビ番組を作ったことはあったけど、映画作りははじめてで「脚本ってどうやって書くんだろう?」というところからのスタートでした。淡路島の映画を作る中で思い出したのが、小学生時代に小学校の校門の前で「飴細工」を売っていたおっちゃん。このおっちゃんを主人公にして、銭湯が舞台のお話を作りたい、もちろん海をバックに上映するのだから、海のシーンもたっぷり入れたい。こんな構想を頭の中で描いていきました。
この話を同級生に相談したところ、「そのおっちゃんまだ生きていて、今はわらびもち売ってるでー」と教えてくれたんです。そこで、実際におっちゃんに会いに行き、脚本のイメージを膨らませていきました。それと同時に、味のある銭湯探しも進めていて、幼い頃の記憶を頼りに銭湯を探したのですが、すでに廃業していたりしていて、なかなかうまく見つからなかった。もう諦めて京都で探すかと思っていたところ、岩屋にある「扇湯」の存在を知り、すぐに下見に行ったんです。それが、イメージ通りの銭湯で!そこからは何度も扇湯に通いながら「こんなお話だったらいいな」と脚本の構想を固めて行き、オール淡路島ロケの映画「あったまら銭湯」の脚本を書き上げました。
そして、「あったまら銭湯」は初回のうみぞら映画祭で上映され、島内の公民館などでも、後日上映されました。島民の反応は上々で「淡路島で映画を撮ってくれてありがとう」「映画の中に自分の知っている風景が出てきて嬉しかった」などの声が大継さんたちの元に届きました。それまでのテレビの仕事では直接視聴者の声を聞くことがなかったこともあり、上映を通じ、お客さんの反応が見える「映画祭」の魅力を再発見したそう。
映画が大好きだという大継さん。だけど、この映画祭は映画好きのためのイベントというよりは、誰が来ても楽しめるイベントにしたいとの思いがあるようで、回を重ねるごとに映画以外のこと(淡路島ならではの体験ができるイベントや飲食ブースの充実)にも力を入れているそうです。
「イメージとしては、地元の子が大切な人と一緒に行きたいと思うようなイベントを目指しています」
大継さん:海で映画を見るってとても特別な体験だと思うんですよね。だからきっと心に残る。記憶の中にこの映画祭があれば、大学で島を出ても友達や恋人をこの特別な場所に連れて来たいと思うんです。そうやって故郷のことを知ってもらう。そんなイベントを目指して企画しています。僕自身も京都や大阪の友達を連れて来て、屋台で淡路島の美味しいものを食べてもらっていますし。
ーなぜ淡路島に拠点(UMIZORA BASE)を持とうと思ったのですか?
大継さん:18歳になるまでは「早く島を出たい。島では映像の仕事は出来ない」と思っていた。でも映像を作る仕事をしていると、「映像を作るようなクリエイティブな作業は自然が近い場所でやる方がいいな」と気持ちが変わって来たんです。なので、淡路島にも拠点を作って京都と行ったり来たりしています。実はこの事務所からすぐの洲本ICのバス停に京都行きのバスが止まるので、割と通いやすい環境なんですよ!
僕自身、いまは時間がなくてあまり出来ていないのですが、淡路島で映像のことを教えたいと思っているんです。本格的な編集は京都の事務所でやっているのですが、編集前の素材作りとかは、割と簡単に出来る作業なので、ここで映像編集スクールなどを開いて、卒業生に淡路島事務所で働いてもらえたらいいなと思っているんです。だけど、教えるのって想像以上に難しくて、まだ本格的に始動出来ていない状態です。この事務所もコワーキングスペースとして地域に向けて開いているので、色々な人が集える場所にして行きたいと思っているのですが、まだまだ試行錯誤中です。
ー淡路島は何かを始めやすい場所だと思いますか?
大継さん:そうですね。お店を開こうと思ったら空き家もたくさんあるし、誰かと知り合いになれば「ここ空いてるから使う?」みたいな話になりやすいです。そもそも、淡路島が大好きで移住して何かを始めようとしている人に対して島民はウエルカムだと思います。僕が映画祭をやろうと思って帰って来た時も「淡路島出身の人が帰ってきて面白そうなことをやろうとしている」と言って、地元の人は応援してくれました。初回の映画祭は3日間の開催で内2日間は雨だったので、もう次回はないかなと落ち込んでいたんですけど「4D(※1)映画みたいで楽しかった〜」という声が届いて、来年も頑張ろうって思えました。
(※)座席が作品中のシーンと完璧にリンクし、前後上下左右へ稼働したり、風、水(ミスト)、香り、煙りなど、各種演出が体感できるアトラクション型の映画鑑賞スタイル。
株式会社海空
https://umizora.jp/
うみぞら映画祭
https://umizora-cinema.com/
編集後記:私も参加者として毎年楽しみにしている、うみぞら映画祭。子供が生まれる前は旦那さんと、子供が生まれてからは毎年家族で参加しています。子連れで参加できる夜のイベントが少ない淡路島で、「うみぞら」は、夜に子供とお出かけできる貴重な機会になっていて本当にありがたい。実は、子供が騒ぐのが不安で、子連れで映画館に行ったことがない私。「うみぞら」だと屋外だし、周りも子連れが多く、多少の騒ぎ声も波音にかき消されるので、親もいい感じにリラックス出来て鑑賞できる(笑)から、なんか最高です。今年はGWに合わせて開催されるようなので、ぜひ参加してみてくださいね!
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